1967年11月3日、ロンドンに生まれる。幼少のクリスマス、両親に買って貰った Pink Floyd "The Dark Side of the Moon" と Donna Summer "Love to Love You Baby" が自身にとって初めてのヘヴィー・ローテーションであり、後の人生に決定的な影響を与えた。一方、習い事として始めさせられたギターは早くに投げ出してしまい、以降、一切の理論的・技術的トレーニングを受けないまま今日に至っている。
11歳の誕生日を迎える頃、屋根裏から 「救出」 したナイロン・ギターで実験的なレコーディングを試みたことからコンポーザー / プロデューサとしての人生は始まり、以来、最大の関心はレコーディング実験とその効果に注がれ続け、バンドを組んだ時期でさえも楽器演奏そのものには魅力を感じていなかったと言う。
14歳の時には Marillion 等にインスパイアされた Karma なるバンドを組織し、デモ・テープを作成しながらギグをこなし始める。翌年には Karma と別名義でインディーズからテープをリリースしており、後に Porcupine Tree として発表の原曲が含まれていたりもする。
1986年、 KARMA を解散の後に No-Man と Porcupine Tree の母体となるプロジェクトを始動。90年前後は No-Man に注力、以降は Porcupine Tree をメインにとその軸足を変えながらも、現在に至るまで並行したプロジェクト運営を継続している。90年代後半からは I.E.M.、 Bass Communion と2つのソロ・プロジェクトを立ち上げ、更に2004年には Blackfield、2005年には Continuum における活動も加わることで経歴の複雑怪奇さに拍車がかかった。
自身の活動の一方で、その作曲能力と音像構築能力が高く評価されていることから musicians' musician として多くの作品にゲスト参加。過去にはプロデューサとして Fish、Marillion、Opeth、Anja Garbarek 等の作品を手掛けており、先には Orphaned Land の次回作プロデュースが決定している。更には Oceansize からも三顧の礼を受け、 SW の多忙な日々は果てしなく続く。
以降、主要プロジェクト別に略歴を記します。
< Porcupine Tree >
Steven Wilson - Vocals, Guitars
Richard Barbieri - Keyboards, Synthesizers
Colin Edwin - Bass
Gavin Harrison - Drums
1987年の結成当初は Steven Wilson と友人 Malcom Stocks がでっち上げた存在そのものがフィクションのバンドであった。バンドを構成するメンバーとディスコグラフィーは二人が考えた全くの出鱈目であり、その冗談の延長として SW が私的に自らのスタジオでレコーディングを行っていた。1989年にその楽曲群から SW 自身が価値有りと判断したものをコンパイルし、 "Tarquin's Seaweed Farm" としてプライベート・カセットを作成。興味を持つであろう人々に送付する。その一つがアンダーグラウンド雑誌 『Freakbeat』 を発行する Richard Allen と Ivor Trueman の手元に渡る。当時両氏はレーベル設立の準備中であり、誌面レビューでは大した評価を与えなかったものの、レーベルにとって初制作となるコンピレーションにて PT に楽曲の提供を依頼した。
以降も SW は PT のフィクション創作を続け "The Nostalgia Factory" を制作。1991年、 Delerium と正式に契約すると、2本のプライベート・カセットを編集して初の CD 作となる "On the Sunday of Life..." を発表。翌年には "Voyage 34" をリリースし、 UK Independet Top 20 に届くヒットとなる。
1993年、後にフルタイム・メンバーとなる Richard Barbieri (ex. JAPAN) と Colin Edwin をゲストに迎えて "Up the Downstair" を発表。12月には Chris Maitland が加わり、初のライヴを披露。 Porcupine Tree はそのままバンド形態に移行する。
1994年、シングル "Moonloop E.P." にてバンドとしての初の楽曲を披露の後、"The Sky Moves Sideways" をリリース。しかし、 SW のソロとバンドの音が入り混じる形態に満足出来ず、1996年には完全なバンド形式のアルバム "Signify" を完成させる。
1997年にワールドワイドな活動を求めて Delerium と契約解消。1998年は契約を持たないままレコーディングに没頭し、1999年3月にソング・オリエンテッドな "Stupid Dream" を Snapper / K-Scope の契約にてリリースする。オールド・ファンは眉を顰めたもの、新しいファン層の獲得に成功した。2000年には最高傑作と評される "Lightbulb Sun" を発表。追ってリリースした "Recordings" が Snapper / K-Scope 契約下における最後のアルバムとなった。
2002年2月、初のメンバー・チェンジ。 Chris Maitland が脱退し、旧知の Gavin Harrison を新ドラマーに迎える。同年9月、 PT は初のメジャー契約を獲得。 Lava Records 下でヘヴィさの増した "In Absentia" を発表し、明確にワールドワイドなマーケティングを意識。2005年3月には、メジャー第2弾となる新たな傑作 "Deadwing" をリリース、同作は "Signify" 以来の日本再上陸を果たし、2006年3月に WHD Entertainment から発売された。
初期のサイケな浮遊に満ちたプログレッシヴ・ロックから始まり、アコースティックなポップさを基調としてメロディとハーモニーに対する取り組みを増して 「歌ものユニット化」 を加速。更にはメタリックなダイナミクスとインダストリアルな手触りを血に加え、現在はノスタルジックな親しみと冷たくコンテンポラリなヘヴィネスを両立させたカテゴライズ不可能なロックに至っている。
キャリアを通じて一貫して作品を染めるのは主流としても傍流としても英国の哀調。引き合いに出されるのは Radiohead の実験的姿勢と哀影、 Pink Floyd の音像構築と拘り、 Tool の冷たいグルーヴと世界不定な侵食、 Sigur Ros の繊細でシームレスな空気の紡ぎ、 Massive Attack の漆黒な透明感などなど。その多様な顔ぶれに象徴されるように多面的な魅力を持つユニークなユニットである。
< No-Man >
Tim Bowness - Vocals
Steven Wilson - Instruments
1986年に Tim Bowness と Steven Wilson によって結成された No-Man is an Island がバンドの母体となっている。数年間をスタジオにおける創作活動に費やしながら、ギタリストの Stuart Blagden とバイオリニストの Ben Coleman を迎えライヴ活動を行っていた。1989年に発表したシングル "The Girl From Missouri" とカセット "Swagger" は何れも振るわず、 Stuart Blagden は脱退。残った3名はバンド名を No-Man に短縮し、活動を継続する。
Public Enemy、A Tribe Called Quest 等の影響とシーンの盛り上がりを受けつつ、ダンス・ミュージックの要素をもその音像に加え再出発。1990年に "Colours" を発表。 "Colours" は Melody Maker 誌と Sounds 誌の Single of the Week に選ばれる程の反響を受け、 One Little Indian Records との契約を獲得。1991年に発表した "Days In The Trees" も Melody Maker、Sounds、Teletext の Single of the Week に選ばれ高評価を得る。
1992年にはデビュー・ミニ・アルバム "Lovesighs - An Entertainment" を発表し、同年に Steve Jansen、Richard Barbieri、Mick Karn の元 JAPAN 組を迎えてのライヴも披露。三氏は1993年リリースの "Loveblows and Lovecries" にもゲスト参加している。1994年には JAPAN 組に加え Robert Fripp、Mel Collins、Ian Carr 等の協力を得て最高傑作と評される "Flowermouth" を発表。その後、 Ben Coleman は脱退し One Little Indian との契約も解消。 No-Man としてのライヴ・パフォーマンスも以降、消滅する。
1996年、3rd Stone Ltd. と契約。模索する姿勢の強い病んだ "Wild Opera" を発表の後、 Bowness と SW は自身の別プロジェクトに没頭して暫しの沈黙。1998年夏に EP "Carolina Skeltons" をリリースして活動を再開すると年末には貴重なライヴ音源集である "Radio Sessions : 1992-96" を発表。続く1999年には初期のアウトテイクに新たな息吹を与えた "Speak" を放つ。
2001年にリリースした "Returning Jesus" で現在の緩やかなアンビエント・ポップへと踏み込み、2003年 Snapper / K-Scope から発表した "Together We're Stranger" にてその世界観を一層推し進めた。2007年に新作に着手の予定。
Porcupine Tree と同様、その音像を変化させながらコンスタントに作品の発表を続けている。キャリアを通じてアンビエントな色調を一貫させ、初期は素朴でソフトなエレポップにロマンティックな透明感を滲ませ、中期はダル且つダークでイクスペリメンタルな姿勢の強いアート・ポップ/ロック。近年ではミニマルさに拍車をかけた緩やかで暖かなアンビエント・ポップを展開。バンドは自身で 'tears in rain' と自らの音を形容している。
人脈的に JAPAN、David Sylvian、JBK とモロ被りであり、その気品ある世界は音的にも近い。Bark Psychosis や Massive Attack をお好きな方にも保守範囲。更には特に初期作品について Depeche Mode、Talk Talk、Tears for Fears をお好みの向きにお試し頂きたいユニット。
< Blackfield >
Aviv Geffen - Vocals, Guitars
Steven Wilson - Vocals, Guitars
90年代から Porcupine Tree の活動に注目していたと言うイスラエル人アーティストの Aviv Geffen が2000年に PT をイスラエルに招聘。ロンドンにて Steven Wilson と Geffen が再会した足からコラボレーションが始まり、2001年には EP が制作される。その出来栄えに喜んだ Helicon / Universal は EP の2001年リリースをキャンセルしフルレンス・アルバムの制作を決定。各自の活動の合間を縫いながら18ヶ月掛けて制作された "Blackfield" は2004年2月にイスラエルにてリリース。シングルは No.1 ヒットに至り、ライヴも行われた。同年8月には Snapper を通じて欧州でもリリースされており、2005年には米国でも発表。
その予想を超える成功を受けて2007年2月に 2nd アルバム "Blackfield II" をリリース。同作は Atlantic 傘下 We Put Out Records との契約を獲得し、欧州を含めワールドワイドにメジャーなユニットとしてプロモーションが行われている。
英国の強い陰影とエイジアな熱が絡み合う、ハーモニー豊かでメロディアスなメランコリック・ポップ/ロック。かつての Pineapple Thief のようにアコースティックでほの暗く儚い世界は 2nd アルバムで柔らかな側面を強め、より一般性を増す方向に傾いている。 Porcupine Tree の音楽性についても同様であるが Coldplay、 Muse、 Mew 辺りの英国〜欧州普遍美メロ愛好家の皆さんには是非お試し頂きたい音。
< Bass Communion >
Steven Wilson のアンビエント実験室。1998年に 1st アルバム "Bass Communion" を発表して以来、他のプロジェクト運営の間隙を縫ってコンスタントに作品をリリースしている。 SW 自身、商業的制約から離れ最もリラックスして取り組める自己満足なプロジェクト、と認めており 「創作に挑む」 と呼ぶほどの忍耐を要しないのだそうだ。
基本的にはソロ・プロジェクトであるが、1999年に他界したパーカッショニスト : Bryn Jones や vidnaObmana 、リミックス・アーティストとの交流も盛ん。音はミュジーク・コンクレート〜ダーク・アンビエントでドローンな世界。暖かな作品も存在するが、総体としては無機質に響く。
< Continuum >
Fear Falls Burning の活動でも知られる Dirk Serries のプロジェクト : vidnaObmana と Steven Wilson の Bass Communion によるコラボレーションとして誕生。2005年3月に発売した "Continuum 1" に閉じた活動かと思いきや、継続したプロジェクトとして今後も凝ったアート・ワーク+限定盤のコンボで作品を放って行く予定とのこと。
音的には Bass Communion のとりわけダークでミニマルな世界を引き継いでいる (派生している) アンビエントと言えるが、今後は趣の異なる作品も発表される可能性がある。
< I.E.M. >
'50〜70年代の実験的サウンド、特にクラウトロック、コズミック・ジャズの影響を受けて吐き出した Steven Wilson のもう一つの実験棟。 Bass Communion と同じく気ままな作品であると自認しているが SW 以外の奏者が多分に絡む点でアプローチが異なる。しかし、ごく僅かなクレジットを除いては参加アーティストを陽にしていない。
アグレッシヴな一面も見せるサイケ味たっぷりのサウンドで SW は Sun Ra を引き合いに出しているが、音的には NEU! や初期の Ash Ra Tempel が近いと思う。
【参考】
各オフィシャル・サイト、Uwe Haeberle氏編集 : SW discography



